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シェアハウス壊滅 ― 韓国人運営者の予言

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2004年にシドニーに滞在していたとき、実に多くの出会いがあった。その中でも強烈なキャラとして印象に残っている人物がいる。それはシェアハウスを運営していた韓国人男性だ。

 

初めてのシェアハウス

1カ月のホームステイを経てシティに出て来た私は、とある韓国人が運営するシェアハウスに住むことになった。

2Bed 2Bath + Sunroom のアパートメントにアジア圏出身者7人という構成だったのだが、その口うるさい韓国人男性のおかげでそこは整然さが保たれていた。掃除当番があり、皆それに従っていたのだ。

彼は特にITに力を入れていた。リビングには共有パソコンが置かれ、その中には海賊版の映画や音楽が大量に保存されていた。

当時最高速度のインターネットが導入されており誰でも使い放題だった。また各部屋にLANケーブルが張り巡らされ、個人のPCから共有ハードディスク内のコンテンツを視聴できた。

これらのことは今では当たり前(むしろ古い?)かもしれないが、当時の素人仕事としてはよくできていた。

「我々アジア人は家の広さよりもconvenienceを好むからなあ」

彼は私にそう自慢したものだ。

 

彼はそこ以外にも二軒、三軒とシェアハウスを拡大させている最中で、それは順調にいっているようだった。

ところが彼は度々私に忠告した。

このビジネスはリスクが高いから絶対に手を出すなよ」と。

シドニーに来て2カ月ほどしか経っておらず右も左も分からない状態だった私は「へーそうなんだ」と素直に思っただけだった。当時の私にはオーストラリアでシェアハウスを運営するなんてとんでもなく敷居が高いことのように思えた。

 

韓国人運営者の口癖 

 

彼が口癖のように言っていたことがある。「自分は絶対に成功しなければならない」と。

彼の言う「成功」は「経済的な成功」を意味していたと思う。

そんなセリフをはっきり口に出して言う人に会うのは初めてだった。日本語での日常会話でそんなことを言われたら違和感ありまくりだ。でもこれは英語での会話だったから、「まあ英語ではそんなことも口走ったりするのかも」と思って納得することにしていた。

今になって彼の胸中を推し量るに、彼は韓国で普通に就職するという無難な?生き方とは違う人生を選んだのだから、それを正当化するためにはオーストラリアで絶対に「成功」しなければならなかった、ということなのかもしれない。

 

綻び

そのシェアハウスでは毎晩、食事を一緒に作ってシェアし合うということが自然に行われていた。英会話初心者にとって、アジア人同士で話すくらいが気楽で良い。初期段階において私の英会話はここで磨かれた。ホームステイでは全然ダメだったが。

関連記事「ホームステイは私の黒歴史」

このように雰囲気の良いシェアハウスだったが、あることをきっかけに韓国人運営者に対する不満が高まった。

しばらく前にそこを退去し、他の都市を旅行してシドニーに戻って来た日本人女性が「二、三日(無料で)泊めて欲しい」と頼んできたのだった。その日本人女性とフラットメイトたち(多くは女性)はすでに友人関係にあった。

 

ところが韓国人運営者はそれを拒絶した。ここの定員は7人だと。

フラットメイトたち「えーなんで? 友達なんだからいいじゃない」

韓国人運営者「お前らは友達ではない。自分はこれをビジネスでやっている」

フラットメイトたち「そ、そんな。彼女が次のところを見つけるまで数日くらいいいじゃない」

韓国人運営者「自分には定員7人を保つ責任がある。泊まりたければ全員に金を払え」

フラットメイトたち「このどケチ!」

 

高まる不満

彼の言うことは正論すぎるほど正論だった。ただし常人の感覚ではそれは受け入れがたいのかもしれない。フラットメイトたちは、この韓国人運営者は強欲な守銭奴だと噂し合った。実際笑える話、彼はマスターベッドルームで日本人のガールフレンドと同棲していたのだが、彼女からも家賃と食費を徴収していた。

フラットメイトたちが不満を爆発させるのを傍らで聴きながら、私は「そんなに不満なら出て行けばいいのに」と思っていた。そのシェアハウスに滞在期間の取り決めはなく、2weeks noticeさえ出せば自由に出て行けるのだから。サービスの悪いビジネスは淘汰されるのみ…。どちらの言い分が正しいといったことよりも、私は当時から、市場原理のようなものを信じるタイプだった。

でも結局フラットメイトたちは出て行かなかった、その時点では。何だかんだ言っても、韓国人運営者が提供するconvenienceが心地良かったのだ。

 

激増する空室

話は現在へと移る。私は4月7日からメルボルン一帯の賃貸物件数をカウントし始めた。

データ元:https://www.realestate.com.au/rent/

f:id:aulab:20200504140112p:plain

 

5月1日までの24日間で、空き物件は40%近く増加している。一週間に約10%のペースだ。これはメルボルンだけでなく、他の都市でも起こっている

空室が増えているということは、テナントはどこかへ行ってしまったということだ。一体どこへ行ってしまったのか?

 

消えた一時滞在者

以下はワーホリや学生、旅行、その他の一時滞在ビザ保有者の推移である。

データ元:Immigrant Exodus

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空室が激増しているのは、一時滞在者が減ったことが寄与していると読み取れる。

一時滞在者は大抵、都心部に住んでいる。事実、私が住むsuburb(シティから車で30~40分)の空き物件数にはさほど変化がない。

ということは…シティのシェアハウスは壊滅状態だろう。

 

韓国人運営者の予言

「このビジネスはリスクが高いから絶対に手を出すなよ」という彼の予言(というか忠告)は16年の時を経て的中した。

当時の私は彼の忠告を無視してフラットメイトたちを引き抜いて近所の物件に大移動した。

関連記事「家賃交渉/シェアハウス脱出のすすめ」

そこでは私がシェアハウスの管理者だった。新たにフラットメイトを見つけるのは毎度容易だったから「一体何のリスクが高いんだろう?」と不思議に思ったものだ。また、韓国人運営者から見ればシェアハウスの人員総入れ替えが起こった訳だが、彼の方でもあっという間に空きを埋めていた。

しかし16年経ってやっと理解した。シェアハウスは極めてリスクが高いビジネスなのだと!

 

後日談

同じストリートの近所に引っ越したわけだから、彼とはその後も度々出くわした。

「これからは競合になるな」

彼は私を競合相手と見做していた。私にビジネスをやっている意識は全くなかったが。

フラットメイトたちのわだかまりがすっかり消えた頃、そんな彼をこちらの新居に招いた。

やって来るなり彼は我々を家賃で呼んだ。

「よう、120ドル! 久しぶりだな!」という具合に。

彼は偽悪的なキャラを崩さなかった。それが素という説もあるが。そんな彼は私の記憶の中で「面白いやつ」として生き続けている。