AUらぼ

オーストラリアを知り、移住・留学を成功させるためのブログ

不動産5軒持っている人は金持ちか?

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オーストラリアに不動産を5軒も持っている人――そう聞いてどんな人を思い浮かべるだろうか?

きっと、とんでもない富裕層に違いない。

オーストラリアに移住して来た頃の私はウブだったので、そんな風に思っていた。

 

しかしその後、オーストラリアというゲームのやり方を急速に学び、彼らの生態を知るようになった今では、実は彼らは落ち着いた富裕層というより破天荒な人たちで、それでいて庶民と同じように経済的な不安を抱えていることが分かった。

 

最高で最悪のタイミング

年始に会った友人は、不動産市場が悪化するのを恐れていた。

シドニーの不動産がピークだった2017年頃に自宅を買ったからだ。

「売ったのは最高のタイミングだったけど、買ったのは最悪のタイミングだった」

彼女は自嘲した。

投資物件を売って得たキャピタルゲインを頭金にして自宅購入に踏み切ったのだった。

そのとき私は止めた。彼女の上司も止めたと聞いている。

「市場が悪化しなかったとしても、ローンの金利が上がったらわたしは終わる」

彼女は弱気になっていた。

私はあのとき、もっと強く止めるべきだっただろうか。

いや、聞く耳持ってくれなかっただろう。そもそも人の決断に口出しなんてできない。

 

Missメルセデス

友人「ねー覚えてる? 一年前、一緒にMaroubra Beachに行った子」

私「もちろん」

その女性はメルセデスに乗って颯爽と現れた。

実のところ私はそれを予感していた。というのも、「中国人の友達が合流する」と聞いていたからだ。

私の周りにいた中国人は、メルセデスかアウディかBMWを標準装備していた。

だから、「やっぱりね」と思ったわけだ。

(しかしそのメルセデスは後部座席のドアが内側からは開けられないという奇妙な故障の仕方をしていた。私は後部座席に座らせてもらったのだが降りるときは誰かが外から開けなければならなかった。)

 

不動産5軒持っている人の胸中

友人「あの子いま、不動産を売ろうとしてるんだけど、どれも全然売れないって」

私「どれもって、彼女、何軒持ってるの?」

友人「5軒」

私「ご、5軒!」

聞けばそのうち数軒は最近――つまりピーク付近で買ったとのことだ。詳しいことは分からないがシドニー周辺と思われる。

 

友人「彼女が言うには2020年は不況が来るそうなのよ。そんな記事が幾つも出てるって。だからその前に売ってしまいたいって」

私の友人がやたらと弱気になっていたのはそれに影響されてのことだった。

MissメルセデスはCommonwealth Bankに勤めていて頭が良いから、彼女の言っていることはあてになると言うのである。

「あの時期に何軒も不動産買うなんて頭良いか?」と私は突っ込みたかったが堪えた。

 

不動産5軒のカラクリ

ともかく私はピンと来た。ああ、そっちのタイプかと。

例えば不動産を一軒、90%の借り入れで購入した場合のBalance Sheetは以下のようになる。

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Asset = Property価格

Liability = Home Loan(ローンの総額)

Equity = Deposit(頭金)

 

Equityのみが実質的な自分の資産で、純資産と呼んだりもする。

↓ 運よく不動産の評価額が10%値上がると、Assetが増えるから、Equityも同じ分だけ増える。そしてHome LoanのAssetに対する割合は減る。

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このEquity増加分を頭金とみなして銀行から再度借り入れすることができる。これをRefinanceと呼ぶ。

↓ そうやって新たに物件を購入するとBalance Sheetはさらに大きくなる。

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↓ これを繰り返して行くと、Balance Sheetはとんでもなく大きくなって行く。

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さて、仮に市場環境が悪化して評価額が下がるとどうなるか?

↓ Balance Sheet的にはこうだ。

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不動産を買うとOwnerと呼ばれるが、借金している限り、真のOwnerは銀行だ。

こうなってしまうと、名義は自分でも、実質何も所有していないことになる。

責任だけを背負い込むことになるのである。

 

注)以上は単純化したモデルで、実際に不動産を追加していく際にはStamp Duty(印紙税)やその他の経費がかかるし、途中で銀行が貸してくれなくなるだろう。

 

Rental Yield

およそ1年前のデータだが、シドニーのRental Yield(Ownerが得る利回り)は以下のようになっている。

House    3.32%

Unit       3.97%

https://www.domain.com.au/news/rental-yields-on-the-rise-across-capital-cities-domain-data-817849/

 

これはGrossの値で

 

Rental Yield (Gross)

= 家賃収入1年分/物件購入価格

 

であり、諸経費を含めた場合はNetだ。(それは人によるから統計結果は出せない。)

 

Rental Yield (Net)

=(家賃収入1年分 - ローン - 諸経費)/物件購入価格

 

投資の成績をより厳密に分析したければ、Stamp Dutyや購入時の経費も加えるべきだろう。

シドニーやメルボルンは物件価格が高すぎるから、Rental Yieldは自ずと低くなり、Netは雀の涙ほどになる。(昔、安いときに買っていれば逆に物凄く高い。)

さらに言うと、TaxとDepreciation(減価償却)が絡んで税引き後利益は多少改善する場合があるが、複雑になるからここでは省略する。

 

Negative Gearing

NetのRental Yieldが低すぎると、マイナスになってしまう。

その状況、または、マイナス分を他の収入と相殺して課税所得を減らすことをNegative Gearingと呼ぶ。

 

驚くべきことに、マイナスになると分かっていながら敢えてそういった物件を買う人がいる。

さらに驚くべきことに、「金持ちはNegative Gearingで旨い汁を吸いやがって」と批判する人がいて、Negative Gearingによる課税所得圧縮を廃止にするかどうかで揉めていた。

もっと驚くべきことに、それを廃止すればHousing Affordabilityが改善する(家が安くなる)だとか、行き過ぎて不動産市場がCrashするなどという人もいた。

 

私はかなり長い間、Negative Gearingの意味が分からなかった。

もちろん、定義は分かる。(まだ分かってなかったりして。)

だが、敢えてそれをやったり、ズルいと言う人がいるのが訳分からなかった。

「私の知らない何かお得なことがあるのか?」ずっとそう思っていた。

 

だがあるとき、そういった議論は全て、「不動産は未来永劫右肩上がり」を前提としている――と考えればいろいろ辻褄が合うということに気付いた。

やはり彼らは常軌を逸している。

私はそんな神話知らない。

 

狼狽売り

不動産市場が悪化したとしても、NetのRental Yieldがそこそこあれば、心理的には追い込まれない。

家賃収入があるから儲かっているわけだし、何年か経てばまた不動産価格が復活するかもしれない。

しかし、Rental Yieldが低すぎたりマイナスだったりすると何のための投資か分からなくなる。

だから損害が大きくならないうちに売却しようとする。

恐らくMissメルセデスは、購入価格より数万ドル高く売ろうとしていたのではないだろうか。

さもなければ、Stamp Dutyや諸経費の分(数万ドル)損してしまうから。

 

不動産5軒持っている人の生態まとめ

人知を超えた存在に畏敬の念を持つ彼らは、自分ではコントロールできないこと――不動産市場や金利の上がり下がり――に敢えて全財産を委ね、それらのアップダウンに翻弄されるという痺れるような今を生きている。

宵越しの金は持たぬという無頼派で、見栄を張ることを浅ましいと忌み嫌う。車は単なる移動手段だから走りさえすれば良く、故障した部位があっても絶対に修理に出したりしない。

 

注)もちろん別のタイプの「不動産5軒持っている人」もいるだろう。価格上昇の含み益が莫大で、今さらちょっとくらい値下がりしてもヒリヒリした痛みなどとは無縁であり、定期的に入って来る家賃収入は一般人の労働収入を優に超えている。全てが予定調和(Under Control )で、もはや生の実感を持てないタイプである。